狩猟後に発生する残滓とは?残滓を適切に後始末しないリスクを知ろう

狩猟後に発生する残滓とは?残滓を適切に後始末しないリスクを知ろう

狩猟は、自然環境の保全や害獣対策の観点から重要な役割を果たしています。しかし、捕獲した動物の解体後に発生する残滓(ざんし)を適切に処理しなければ、環境汚染や野生動物の誘引、さらには法的な問題を引き起こす可能性があります。

狩猟者には、法律や規制を理解し、適切な後始末を行う責任があります。本記事では、日本における狩猟残滓の処理に関する法律と、安全かつ効果的な処理方法について詳しく解説します。

狩猟後に発生する残滓とは何か?

大物猟では、獲物を解体した際に出る皮や骨などの不要物を「残滓(ざんし)」と呼びます。残滓の適切な処理は、猟師にとって重要な作業の一つです。

一般的に、獲物の可食部の割合を示す歩留まりは、イノシシでおよそ50~70%、シカではおよそ40%とされています。そのため、食用とならない部分が残滓となり、想像以上に重くなることも少なくありません。特にイノシシの場合、歩留まりの幅が大きいのは、皮を食べるかどうかによる違いが影響しています。

狩猟後の後始末・残滓処理の方法

狩猟で捕獲した動物の残滓を適切に処理する方法はいくつかあります。専用焼却炉を使用する方法や、環境に配慮した埋設処理、さらに資源として再利用する方法など、それぞれの状況に応じた適切な処理が求められます。

特に、鉛弾を使用した場合は、他の動物による二次被害を防ぐために適切な処理が重要です。ここでは、狩猟後の後始末の方法について、具体的な処理手順と注意点を解説します。

専用焼却炉による焼却処理

狩猟で捕獲した動物や食肉加工の残渣は、専用焼却炉で処理できます。専用焼却炉の一般的な処理能力は、施設により異なりますが一定量ごとに処理するバッチ処理方式が採用されています。

狩猟による捕獲数は日によって変動し、処理能力を超える場合もあります。その際は、冷蔵・冷凍保管庫の併設が必要です。既存の焼却施設で処理できない場合や、生物処理施設の設置が難しい地域では有効です。

ただし、導入費や維持管理費が高額なため、設置には慎重な検討が必要です。また、捕獲者が個体を切断せずにそのまま焼却できる点も利点です。

狩猟後の残滓を埋設する

捕獲した動物を持ち帰れず、自然への影響が少ない場合に限りその場で埋設できます。ただし、埋設方法によっては環境や野生動物に悪影響を与えるため注意が必要です。

特に鉛弾を使用した場合、埋設が不十分だと他の動物が掘り返して食べ、鉛中毒を引き起こす恐れがあります。そのため、埋設する際は十分な深さを確保し、野生動物に掘り返されないようにする必要があります。

また、一箇所に複数の動物を埋める場合は、環境への影響を考慮し、できるだけ適正な処理施設で処理することが望ましいとされています。さらに、埋設場所まで運ぶ際は、体液が漏れないようにし、クマなどの野生動物を引き寄せない工夫が必要です。

狩猟後の残滓を資源化する

近年、狩猟で得た動物の残滓を資源として活用する方法が注目されています。特に、イノシシの肉や骨を加工し、飼料や肥料として利用する方法は、飼料安全法や肥料取締法で認められています。

具体的には、化製場(レンダリング工場)でイノシシを処理し、肉骨粉として家畜や養殖魚の飼料や農業用の肥料にするケースがあります。また、イノシシを堆肥に混ぜて発酵させ、肥料として利用する方法もあります。

ただし、平成30年3月時点で、発酵処理した堆肥が正式に肥料として認められた事例はありません。(1)このように、狩猟後の残滓は資源として活用できます。ただし、安全管理や法的基準を守ることが前提となるため、適切な処理方法を選ぶことが大切です。

ペットフードへの活用

シカやイノシシの狩猟後の残滓は、ペットフードに活用できます。シカはペットフードのみに利用でき、イノシシはペットフード、飼料、肥料として活用できます。

ペットフードには、ジャーキー、骨のおしゃぶり、ふりかけなどがあり、製造からパッケージ化までを同一施設で行う必要があります。肉骨粉の利用には制限があり、シカ由来のものは使用できません。

一方、イノシシ由来のものは、適切な確認手続きを経れば利用できます。製造時は、銃弾の除去、異常個体の排除、他の野生動物との分離処理が必要です。また、ペットフードの製造にはペットフード安全法が適用され、加熱処理や届出手続きが義務付けられています。(2)

適切に管理し、シカやイノシシの残滓を有効活用することが大切です。

狩猟後の残滓を後始末せず放置するリスク

狩猟後の残滓(動物の内臓や骨など)を適切に処理せず放置すると、環境や生態系にさまざまな悪影響を及ぼします。特に以下のようなリスクが指摘されています。

ヒグマの冬眠異常や人身事故の増加

北海道では、放置された残滓を餌とするヒグマが冬眠せず、結果的に人里へ出没するリスクが高まります。

冬眠しないヒグマは餌を求めて行動範囲を広げ、人との遭遇が増加し、事故の原因となる可能性があります。狩猟者はヒグマを誘引しないためにも、残滓の適切な処理が求められます。(3)

鉛中毒による希少猛禽類への影響

狩猟に使用される鉛製のライフル弾や散弾が残滓に残ると、それを食べた希少猛禽類(オジロワシ、オオワシなど)が鉛中毒を発症する恐れがあります。

実際に、北海道の水辺域では鉛中毒による猛禽類の死亡例が確認されており、この問題を受けて、平成14年に「指定猟法禁止区域制度」が創設されました。

これにより、北海道全域および一部の水辺域では鉛弾の使用が制限され、狩猟後の残滓の放置も原則禁止されています。しかし、それでも鉛中毒の被害は依然として発生しており、より厳格な管理が求められています。(4)

悪臭のリスク

狩猟後の残滓を放置すると、腐敗が進み強い悪臭が発生します。悪臭は周辺環境や住民の生活に悪影響を及ぼし、特に規制地域では悪臭防止法に基づく管理が求められます。

悪臭防止法に基づき、規制地域では特定悪臭物質の濃度や臭気指数の基準が定められています。残滓の腐敗によって基準を超える悪臭が発生した場合、行政から指導や勧告を受ける可能性があります。

また、住民の苦情を受けて市町村や特別区が調査を行い、規制基準を超えていると判断されれば、改善勧告が出されることもあります。(5)

衛生面のリスク

狩猟後の残滓を放置すると、衛生面で深刻なリスクが生じます。近年、豚熱(CSF)が野生イノシシに広がっており、その拡大を防ぐには徹底した防疫対策が必要です。

農林水産省と環境省は、令和4年3月に「豚熱及びアフリカ豚熱に感染、または感染の疑いがある野生イノシシの死体等の処理について」という通知を出し、適切な処理の重要性を強調しています。

この通知では、防疫指針に基づき、捕獲した野生イノシシの死体や残滓は焼却などで適切に処理する必要があるとされています。また、家畜伝染病予防法で「汚染物品」に該当する場合でも、一般廃棄物処理施設での処理が可能とされており、自治体や関係機関との連携が重要です。

適切に処理せず放置すると、野生動物を介して感染が広がり、養豚業へ大きな影響を与える可能性があります。(6)

日本における狩猟残滓の処理に関する法律と規制

狩猟後の残滓を適切に処理することは、狩猟者にとっての義務であり、日本では「鳥獣保護管理法」や「廃棄物処理法」などの法律によって規定されています。

これらの法律に違反した場合、罰則が科せられることもあり、法的責任が問われる可能性があります。狩猟後の後始末を適切に行うためには、これらの法律を正しく理解し、自治体のルールに従うことが不可欠です。ここでは、日本における狩猟残滓処理の法的規制について詳しく説明します。

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律

狩猟後の残滓を適切に処理せず、その場に放置することは「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に違反する行為とみなされます。

(鳥獣の放置等の禁止)
第十八条 鳥獣又は鳥類の卵の捕獲等又は採取等をした者は、適切な処理が困難な場合又は生態系に影響を及ぼすおそれが軽微である場合として環境省令で定める場合を除き、当該捕獲等又は採取等をした場所に、当該鳥獣又は鳥類の卵を放置してはならない。

鳥獣保護管理法に違反し、捕獲物を放置した場合、「法律違反による罰則(第八十六条の一)
」に基づき、30万円以下の罰金が科せられます。これは、違反者が個人であっても法人であっても適用されるため、狩猟者は法律を遵守する必要があります。(7)

廃棄物処理法

狩猟後の内臓や骨などの残滓を放置すると、廃棄物処理法に違反する恐れがあります。捕獲した動物を持ち出して処分する場合、「一般廃棄物」となり、市町村が責任を持って適切に処理する必要があります。

一般廃棄物は、市町村の「一般廃棄物処理施設」で処理されます。ただし、正式な「一般廃棄物処理施設」と認められるのは、処理能力が1日5トン以上の施設に限られます。シカやイノシシを処理する施設の多くはこの規模に達していません。

通常、特別な届出や許可は不要ですが、自治体のルールに従い適切に処理する必要があります。残滓を放置すると法律違反となり、行政から指導や罰則を受ける可能性があります。狩猟の際は、自治体の指示を確認し、責任を持って適切に処理しましょう。(8)

狩猟後はルールに基づき適切に残滓処理・後始末をしよう

狩猟後の残滓を適切に処理することは、環境保護や野生動物の保全、そして狩猟の社会的な受容を維持する上で重要です。法律に基づいた適正な処理を行わなければ、行政処分や罰則の対象になる可能性もあります。

焼却や埋設、資源化など、状況に応じた適切な処理方法を選択し、狩猟の持続可能性を高めていくことが求められます。狩猟者一人ひとりが責任を持ち、適切な後始末を心掛けることが大切です。

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