狩猟においてナイフは欠かせない道具の一つです。作業を安全かつ効率的に行うためには適切なナイフ選びが欠かせません。しかし、狩猟ナイフには多種多様な種類や用途があり、どの狩猟ナイフを選ぶべきか分からない方も多いでしょう。
本記事では、狩猟ナイフの基本的な用途や選び方のポイント、ナイフに使われる鋼材の詳細について解説します。また、用途別に最適なナイフも紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
狩猟ナイフとは?3つの用途を解説
狩猟ナイフは、獲物を仕留めるだけでなく、解体や皮剥ぎ・枝やヤブの処理など、狩猟活動全般で活躍する重要なツールです。ここでは、狩猟で求められる狩猟ナイフの具体的な用途について詳しく解説していきます。
獲物への止め刺し
止め刺しは、狩猟の状況によって必要になることがあります。例えば、罠猟では罠にかかった獲物をまず気絶させ、その後ナイフを使って失血死させます。これにより、獲物への苦しみをできるだけ少なくし、迅速かつ効率的に処理できます。
一方、銃猟では、猟犬が獲物に絡んで銃が使えない場合や、仕留め損ねて動いている獲物を安全に止めるためにナイフが活躍します。
獲物を解体する
狩猟で仕留めた獲物を食材として活用するには、解体作業が欠かせません。まず皮剥ぎでは、皮下組織をナイフで切り離して効率的に皮を剥ぎます。その後、関節や骨を分離する工程では、細かな作業が可能なナイフが必要です。
骨を外した後は、肉を部位ごとに切り分け、筋や硬い部分を取り除く「スジ引き」も行います。解体作業には用途に適したナイフが不可欠で、鋭さや精密さが特に重要です。
枝やロープなどを切る
狩猟では、枝やロープを切る場面が頻繁にありナイフが大活躍します。射角に枝やツタがある場合、ナイフで切り払って視界を確保できます。また、獲物を追う際や運び出す際には、進路のヤブ払いやツタの切断を行います。
さらに、小枝を切って罠を設置したり、解体用ロープを補修するなどの「ちょっとした」作業にも役立ちます。
狩猟ナイフの選び方のポイント
狩猟ナイフを選ぶ際には、用途やデザインだけでなく、日本の銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)を十分に理解しておくことも重要です。ここでは、狩猟ナイフ選びで押さえておきたいポイントを分かりやすく解説していきます。
銃刀法に注意する
狩猟ナイフは、銃刀法をしっかりと理解した上で選ぶ必要があります。銃刀法では、刃物は「ナイフ」と「刀剣類」に分類され、刃渡り15cm以上の刃物が「剣」とみなされる場合がある点には注意が必要です。
大型のハンティングナイフでも、条件を満たせば刀剣類に該当し、所持が制限される可能性があります。また、刃渡り6cm以上の刃物は、正当な理由なく携帯することが禁止されています。
安全に狩猟を楽しむためには、まず刃渡り15cm以下のナイフを選ぶことをおすすめします。また、ナイフの取り扱いにも注意が必要です。使用場所は山や解体処理施設、自宅などに限定し、不必要に持ち歩かないようにしましょう。
さらに、ナイフの使用目的を「動物の止め刺しや解体で使用するため」など、明確に説明できる準備をしておくことも大切です。それでも、刃渡り6cm以上のナイフは警察の判断によって違法とされる可能性があるため、最終的には自己責任で選び、法律に沿った使用を心がけましょう。
初心者は安いナイフから試してみる
狩猟用ナイフは種類やデザインが多彩で高価なものに魅力を感じがちですが、初心者の方は1本3000円〜1万円程度の廉価なナイフから始めてみましょう。
山の中ではナイフを紛失するリスクが高く、一度落としたものを見つけるのはほぼ不可能です。もし失ったナイフが廉価品であれば精神的なダメージも少なく、「次は気を付けよう」と前向きに学びに変えられます。しかし高価なナイフを失うと、そのダメージは非常に大きく、狩猟そのものの楽しさが損なわれかねません。
さらに、廉価なナイフは実践的な練習にも最適です。ナイフは正しい動かし方や砥ぎ方を習得する必要があり、ミスによる刃の欠けや消耗を恐れずに扱うことで技術を磨けます。まずは安いナイフを使い込み、基本的な扱い方を体得した後に自分に合った上位モデルを検討すると良いでしょう。
重量が300g程度のものを選ぶ
狩猟では、ナイフ以外にも装備を背負って山中を長時間歩くことが多いため、装備全体の軽量化が求められます。便利な機能が多くても、重たいナイフを選んでしまうと移動時の負担が増し、獲物と遭遇する前に体力を消耗してしまう可能性があります。
適切な重量としては、300g程度のナイフがおすすめです。例えば100g程度のものでは、強度が不足して作業中に刃が欠けたり、獲物への刺突が困難になることがあります。一方、400gを超えると重すぎて取り回しが悪くなるでしょう。
狩猟ナイフは「軽さ」と「強度」のバランスが鍵です。300g前後のナイフは、実用性を維持しつつ持ち運びの負担を軽減するため、初心者からベテランまで安心して使用できます。
狩猟ナイフの鋼材について
狩猟ナイフを選ぶ際、鋼材の種類を理解することは非常に重要です。ナイフの性能は、鋼材の特性によって大きく左右され、切れ味や耐久性、メンテナンス性などに影響を与えます。
ここでは、主な鋼材の特徴や性能、狩猟ナイフに使用される代表的な鋼材について詳しく解説していきます。
狩猟ナイフの主な鋼材は炭素鋼とステンレス鋼の2つ
狩猟ナイフに使われる鋼材は、大きく分けて「炭素鋼」と「ステンレス鋼」の2種類があります。
炭素鋼は、鉄に炭素を一定量以上混ぜた合金で、非常に硬く切れ味が鋭いのが特徴です。ただし、錆びやすいため、こまめなメンテナンスが必要です。
一方、ステンレス鋼は鉄にクロムを混ぜた合金で、錆びにくく、耐食性に優れています。「ステンレス(stain-less)」という名前が示す通り、汚れや錆に強い点が魅力です。しかし、ステンレス鋼は加工が難しく価格が高い傾向があり、研ぎ直しも炭素鋼より手間がかかります。
初心者はそれぞれの特徴を理解し、自分の用途やメンテナンスのしやすさに合った鋼材を選びましょう。
鋼材の硬度と靭性について
鋼材の硬度と靭性は、狩猟ナイフの性能を語るうえで重要なポイントです。一般的に、硬度は鋼材の硬さを示し、HRC(ロックウェル硬度Cスケール)で数値化されます。この数値が高いほど硬度は高くなりますが、その分脆さも増し折れやすくなります。
一方、靭性は粘り強さを示し、ナイフが衝撃を受けても折れにくい性質を表します。硬度と靱性は反比例の関係にあり、高い硬度を持つ鋼材は靭性が低くなる傾向があります。
狩猟では、硬度が高すぎると刃こぼれが起きやすくなり、靭性が低すぎると骨を切るような作業で折れるリスクが高まります。そのため、硬度と靭性のバランスが取れた鋼材を選ぶことが重要です。
また、鋼材の性能はその素材だけで決まるわけではなく、焼き入れや焼き戻しといった熱処理の方法によっても大きく変わるため、これらも考慮して選びましょう。
狩猟ナイフに使われる鋼材一覧
以下に、狩猟ナイフに使われる鋼材を詳しく表にまとめました。
鋼材名 |
製造国 |
鋼の種類 |
硬度 |
特徴 |
D2鋼 |
アメリカ |
炭素鋼 |
RC59~60 |
硬度が硬く切れ味が良い |
SK材 |
日本 |
炭素鋼 |
SK85:59以上SK75:57以上 SK65:56以上など |
安価な包丁やドリル刃の工具用として使われている |
黄紙系 |
日本 |
炭素鋼 |
HRC58±2 |
SK材の靭性を強化し主に農工具で使われている |
白紙系 |
日本 |
炭素鋼 |
HRC63以上 |
日本刀に使われる玉鋼(たまはがね)に近い成分 |
青紙系 |
日本 |
炭素鋼 |
HRC65~HRC67以上 |
青紙スーパーは非常に硬い |
ダマスカス鋼 |
不明 |
炭素鋼 |
不明 |
粘りがあり炭素鋼材でありながら錆びに強い |
ATS34 |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC59~61 |
バランスが良いナイフ用の鋼材 |
ATS55 |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC59~61 |
ATS-34を改良したもので錆びに強い |
ZDP-189 |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC67以上 |
ナイフに適しているが高価で砥石で研ぐのが非常に難しい |
AUS-6 |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC56~58 |
錆にくい合金鋼 |
AUS-8 |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC56~58 |
AUS-6を改良したもので加工がしやすく比較的リーズナブル |
銀紙1号 |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC57~58 |
錆びに強く海で使うのに最適 |
銀紙3号 |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC59~61 |
銀紙1号の炭素含有量を増やしたものでカミソリなどに使われている |
V金シリーズ |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC60以上 |
高級ステンレス包丁に使用される。 |
モリブデン鋼 |
日本 |
ステンレス鋼 |
HRC58~60 |
硬度はやや劣るが安価 |
SUS-440C |
アメリカ |
ステンレス鋼 |
HRC57~59 |
加工性が良く価格的にもリーズナブルなナイフに多様 |
154CM |
アメリカ |
ステンレス鋼 |
HRC59~61 |
ATS-34と同様の性能を持っている。 |
ハイスピード工具鋼 (ハイス鋼) |
アメリカ |
セミステンレス |
HRC61~63 |
ステンレスだが錆びやすい |
鋼材ごとに特徴が異なるため、用途やメンテナンスのしやすさを考慮して狩猟ナイフを選びましょう。
用途別に最適な狩猟ナイフを紹介
狩猟ナイフは、用途によって求められる機能や形状が異なります。それぞれの作業に適したナイフを選ぶことが、効率的で安全な狩猟活動につながります。
ここでは、用途ごとに最適な狩猟ナイフを紹介し、その特徴や使い方について解説します。
狩猟刀|止め刺しにおすすめ
獲物の止め刺しには、刃の先端が細く獲物に差し込みやすい「狩猟刀(ハンティングナイフ)」が適しています。狩猟刀は、刃に厚みがあるため獲物が暴れても折れにくいのが特徴です。
また、持ち手の部分にフィンガーグルーブやフィンガーガード(つば)が付いており、手が滑っても指が切れないように工夫されています。鹿や猪などの大きな獲物を狙うなら、獲物の心臓までの距離を考慮して、刃渡りが最低でも12 cm(3寸)あるものを選びましょう。ハンターからは、刃渡り25cm(6寸5分)ほどの狩猟刀が人気です。
ナタ|ヤブ払いに便利
山中で木の枝やヤブを払う際には、ナタ(鉈)が便利です。ナタは一般的なナイフとは異なり、振りかぶった際に手から滑り落ちないよう、グリップの先端が膨らんだ形状をしています。
さらに、ナタは重心が刃先に寄るように設計されているため、太い木の枝や薪も効率よく切ることができます。ナタと似た用途で使用される道具には、ハチェットナイフやブッシュナイフと呼ばれるタイプもあり、これらは林業やアウトドア活動で愛用されています。
スキナーナイフ|皮はぎ専用のナイフ
スキナーナイフは、狩猟で仕留めた獲物の皮を剥ぐ作業に特化した専用ナイフです。一般的なナイフは切れやすさが重要ですが、スキナーナイフは皮まで切ってしまうのを防ぐために、あえて切れすぎないように設計されています。
スキナーナイフには、獲物の腹を裂くための刃である「ガットフック」が背中側に付いたタイプもあります。お腹の皮にガットフックを掛けて下に動かすことで、刃先で獲物の内臓を傷つけずにお腹を開けられます。
ケーパーナイフ|鳥の解体や骨を外すのに活躍
ケーパーナイフは、狩猟や解体作業において細かい作業を行う際に最適な超小型ナイフです。ケーパーナイフは、刃が持ち手よりも小さく小回りが利くため、カモなどの小型の鳥を解体する際に活躍します。
一般的なナイフでは難しい細かな部位の処理も、ケーパーナイフであれば簡単に行うことができます。狩猟後に自分で解体作業を行う場合、ケーパーナイフは一本持っておきたい頼れるツールです。
ブッチャーナイフ|獲物の筋引きや精肉作業に最適
ブッチャーナイフは、筋引きや精肉作業を行う際に最適なナイフです。刃の短いナイフで精肉作業をすると何度も切り直しが必要となりますが、ブッチャーナイフは刃先が長く一度のストロークで広い範囲を切ることができるため、一度の動作で効率よく作業が進められます。
プロの精肉師や本格的な狩猟家だけでなく、初心者にも使いやすい設計で、精肉作業を簡単にする必須アイテムと言えるでしょう。
フォールディングナイフ|ちょっとした作業に便利
フォールディングナイフは、日常的な狩猟やアウトドア活動の中で、ちょっとした作業に便利な折り畳み式のナイフです。コンパクトに収納できるため、持ち運びがしやすく必要な時にすぐに使える点が魅力です。
鳥猟では、腸抜きや簡単な解体作業が効率的に行えるガットフック付きのフォールディングナイフが便利です。また、銃のメンテナンスに役立つドライバーなど、マルチツールとして使えるモデルもあり、幅広いシーンで活躍します。小回りの利くフォールディングナイフは、一つ持っておくと何かと重宝する道具です。
初心者がまず揃えるべき狩猟ナイフ
狩猟を始める際、どのナイフを最初に揃えるべきか迷う人も多いでしょう。初心者には、汎用性の高い「ユーティリティナイフ」と、狩猟刀とナタの特長を併せ持つ「剣鉈」の2種類のナイフがおすすめです。
ここでは、初心者がまず揃えるべき狩猟ナイフについて詳しく解説します。
ユーティリティナイフ
ユーティリティナイフは、様々な場面で活躍するナイフです。小型サイズの物が多く、主に動物の解体作業で使われます。ユーティリティナイフは非常に利便性の高いナイフですが、小型であることから獲物の止め刺しやヤブ払いには向きません。
おすすめのユーティリティナイフは、低価格でありながら耐久性の高い「モーラナイフ」です。狩猟の経験が増えてきたら、モーラナイフでの使用感を基準として次のナイフを選ぶといいでしょう。
剣鉈
剣鉈は、狩猟刀とナタの特徴を併せ持った比較的大型のナイフです。刃先が鋭く、止め刺しやヤブ払いで活躍します。ナタは重みで叩き切るのが特徴ですが、剣鉈は細かい動作で突き刺したり斬ったりすることができるのでより狩猟向きのナイフだと言えます。
動物と格闘戦になった場合のことを考えると、やや金額が高めであっても質の良い剣鉈を購入しておくといいでしょう。
狩猟ナイフは経験や用途に合わせて最適なものを選ぼう!
狩猟ナイフは単なる道具ではなく、狩猟の成功を支えるパートナーです。自分の経験や用途に合わないナイフを選んでしまうと、作業効率が落ちるだけでなく安全面でもリスクが大きくなります。
初心者はまず廉価品で扱いやメンテナンスを学び、経験を積む中で自分に合ったナイフを見つけると良いでしょう。経験や用途に応じた最適なナイフを選び、快適で充実した狩猟生活を楽しみましょう。