【特別編】宮崎大学 1/2
狩猟業界をプロとしてリードする
- イノホイ会員さま
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室屋 敦紀さん
(株式会社末松電子製作所 委託研究員)
(イノホイ歴:2年)
当社では鳥獣被害対策用品を販売しておりますが、狩猟に関する情報が集めにくいという声も多く寄せられております。
そこで私たちは、実際のお客様のリアルな声を発信することで、初心者から上級者まで、狩猟に関わるすべての人に、なにかの気づきや安心感を提供したいと考えました。
今回の取材記事は特別編です。
宮崎大学で鳥獣被害対策の研究に携わる4人にお話を伺い、2回に分けた記事にしました。
左から:室屋さん、西脇教授、迫田さん、重信さん
今回の記事で取材させていただいたのは、室屋 敦紀(むろや あつき)さんです。イノホイ歴は2年。
企業の委託研究員として、出身大学の宮崎大学で鳥獣被害対策の研究を行っている室屋さん。大学で一緒に活動をしている現役大学生の迫田匡史さんとともに取材をさせていただきました。
迫田さんの記事はこちら。
今回は、鳥獣被害対策をお仕事とされている室屋さんにプロ目線でお話を伺いました。
好きなこと、得意なことを仕事や研究としてさせてもらっています
室屋さんについて
室屋さんは鹿児島県出身の32歳。
熊本県八代市にある鳥獣被害対策の電気さく専門メーカー「株式会社 末松電子製作所」の委託研究員として、農作物鳥獣被害対策アドバイザーを担っています。
委託研究とは、簡単にいうと企業が大学等に対して研究を委託する制度で、大学での研究成果を委託者へ報告することにより、企業等の研究開発に協力するというものです。
室屋さんの主な業務としては、製品の研究開発、効果検証、現地指導・提案などを担当しており、大学院での修士論文を会社の製品の効果検証として活用しています。
現在保有している資格は、「鳥獣管理士3級」、「第一種銃猟免許」、「わな猟免許」、「アマチュア無線技士(4級)」。
そんな室屋さんはもともと県職員で、昨年度まで宮崎県庁に勤務しており、林業の技術職として狩猟に関することや鳥獣被害対策の業務を担当していました。
公務員という立場上、自分がやりたいことが思うようにできないこともあり、自分の得意な鳥獣対策の分野で宮崎県に貢献できる別の方法を考えたときに、転職という選択をしました。
室屋さん:
「今の会社では委託研究員として県内外問わず自由に勉強などをさせてもらっています。 大学でもさまざまな研究をさせてもらっているので、これからも引き続き楽しみながら頑張っていきたいですね。」
室屋さんが現在行っている研究は”アナグマ対策”。
南九州地方で被害が増えており、捕獲頭数も目に見える形で増加傾向にあります。
それに加えて、イチゴやスイートコーン、マンゴーなど高単価な作物が被害にあっているため、被害金額も増加しています。
そこで、会社で作っている中型動物対策に特化した資材(電気柵)を使って、効果検証を研究の一環として行っています。
室屋さん:
「アナグマには「電気柵」が効果的ですが、数が多すぎる場合には、箱罠による捕獲も同時に進めたほうがいいと思います。」
狩猟を始めたきっかけ
室屋さんがこの業界に足を踏み入れたのは大学時代のこと。
地元の鹿児島県指宿市で、室屋さんの祖父が「かんしょ(さつまいも)」を作っていました。
「周りの畑は野生動物による被害があるのに、祖父の畑には被害がなく、これはなぜだろう」と疑問に思った室屋さん。
当時通っていた宮崎大学で西脇教授の研究室に入り、鳥獣被害対策について学び始め、わな猟免許も取得しました。
所属した研究室ではシカやチョウ(蝶)などの幅広い生態系に関する研究ができ、室屋さんはイノシシに関して研究をしました。
銃について
現在、室屋さんはわな猟だけでなく、銃猟の免許も取得されています。
22歳で県庁に入庁し、社会人一年目の頃に銃猟免許を取得をしました。
銃猟の免許も取った理由としては、「止めさし」をする必要があったからです。
電気やバットなどでの止めさしはなかなか大変だったため、免許取得に踏み切りました。
今では、止めさしの為だけでなく、巻き狩りもしており、今の時期(7月)は有害駆除として銃を活用しています。
使用している罠について
最初は恐怖心もあり、箱罠から使い始めた室屋さん。
狩猟に慣れてきたところで、くくり罠も使い始め、猟期の際に使っています。
室屋さんの猟場ではこれまでイノシシが多かったのですが、最近ではシカの生息数が急増しています。
室屋さん:
「今は銃を使っての猟がメインとなっていますが、今のところ怪我などはないですね。
銃や電気止めさしなどは、人間に対しても危険なものなので、常に注意しながら取り扱っています。」
イノホイの商品で使っていただいているのが、イノシシホイホイと箱罠です。
「比較的安くてコストパフォーマンスが良いので、イノホイで買っています。」と室屋さん。
また箱罠について、「餌を箱罠の奥の上部に付けて動物の目線を上げれば、取り逃がしを減らせる。」などとプロ目線でご意見も伺うこともできました。
箱罠について話す室屋さん(手前)と迫田さん
そんな室屋さんが今もお世話になっているのが、この業界に入ったきっかけにもなった恩師である西脇教授です。
西脇教授が、宮崎県庁の鳥獣被害対策支援センターへインターンシップ生として紹介をしたことで、室屋さんの今があります。
西脇教授
西脇教授について
西脇教授は、宮崎大学農学部 フィールド科学教育研究センターの教授で、農学博士として植物を専門としています。
動物の生態自体を研究している人は多いのですが、鳥獣被害対策の研究をしている人があまりおらず、
「実家の農場も野生動物の被害を受けて困っており、イノシシやサルによる農作物被害に苦しむ人々を助けるためには、まずは動物のことを知らないといけない」と、”植物”専門の西脇教授が鳥獣被害対策の研究に携わることを決心します。
また、一見植物と鳥獣被害対策は関係がないように見えますが、イノシシなどに植物を食べられてしまうという立場からも、鳥獣被害対策について研究をしています。
イノシシやシカも人間のように食べ物に対して好き嫌いがありますが、食べるものが無くなれば、今まで嫌いだったものでも食べるようになります。
いろいろなものが餌になりますが、イノシシの追い払い実験を行っている学生には「米ぬか」を誘引餌として使うことをアドバイスしています。
鳥獣被害対策について
鳥獣被害に対しては、捕り続けないと被害が増える一方です。
西脇教授:
「野生動物にとって、餌も住む場所もあるから増えてしまう。
もともと平地が野生動物のすみかで山の上に人間が住んでいて、動物たちが自分たちのすみかを取り戻しに来るのだから、これからは人が山の上に住むべきだという人もいます。」
実際、長崎県の対馬市では、長年にわたってシカを保護の対象とし過ぎたことにより、適正頭数を大幅に超えており、イノシシやシカによる農作物被害が増えています。
ハンターが足りないということももちろんありますが、捕獲し続けて増えない環境にすることが大事だと西脇教授はいいます。
西脇教授:
「捕獲したらおいしくいただくことも大切です。
私の地元の特産品である「山椒味噌」を付けて食べると、獣臭くても臭さを消してくれておいしく食べられるので、とてもおすすめです。」
今後の展望について
世の中に鳥獣被害対策についての論文はありますが、
「罠を広範囲にたくさん設置すれば捕獲できた」という一見、当たり前の結果であったと室屋さんと西脇教授は口をそろえていいます。
西脇教授:
「気象条件なども含めて比べており、罠の数を多くすれば多く捕れるというのも重要な結果だとは思いますが、他にも捕獲数を左右する要因があるのではないかと思います。」
その他にも「シカの誘引を塩水で行った結果」の論文や、「対象の餌のうちどれが有効か比べてみた」という論文も地域別であるそうです。
室屋さん:
「宮崎や南九州でイノシシについて調べた論文がまだないため、ぜひ調べてみたいと思っています。
それに加えて、県の取り組みのアスリート向けジビエ食も気になりますね。」
宮崎県では、鳥獣被害対策に「アスリート向けのジビエ食」を取り入れ、昨年度から力を入れています。
宮崎県はプロスポーツのキャンプ地として利用されていることもあり、「”脂肪が少ない上に栄養価が高い肉”であるジビエは、まさにアスリートに最適」とPRしながら、ジビエの普及を試みています。
室屋さん
業界の課題と室屋さんの思い
狩猟に興味を持っている学生は意外にも多く、銃猟に関しても興味がある人もいるため、若年層の需要はあるようです。
ただ、それが狩猟者の確保につながっているかどうかは別問題と室屋さんはいいます。
室屋さん:
「数年前にわな猟免許の取得可能年齢が18歳に引き下げられたことと、補助金も出ているため、若い子たちが免許を取るのですが、免許を取っておしまい、更新まではしないという、いわゆる”ペーパーハンター”が多いのが現状です。
今回の取材で、私や迫田さんなど若い人でもこうやって狩猟をやっているんだよと多くの人に知ってもらうことで、それを機に興味を持ってもらえる人がどんどん増えてくれると嬉しいです。」
高齢化になりつつある狩猟業界を、室屋さんのような若年層の力でリードしていきます。